スティル・ア・パンク。




彼はミュージシャン。名前はグレ男。
学生の時、一緒のバンドでプロを目指した仲間だ。
僕は髪を黒く染めて会社に入り、バンドを抜けた。
彼は今でも金髪の髪をスプレーで固めて、音楽を続けている。
深夜のコンビニのバイトで年下の社員に怒られたりしながら、
レジを打ったり、お弁当を並べたりしながら
夢を捨てずに、走り続けている。
社会が彼をどう見ているのかは、わかる。
でも僕は、立ち止まらずに走り続ける姿に
心から応援の気持ちを伝えたい。

のですが、残念なことに、誠に残念なことに
彼は時々方向性を見失うことがあります。
今でもたまに彼と飲んだりするのですが、
そんな時彼はうれしそうに新しいデモテープや
作りかけの歌詞を渡してコメントを求めてきます。
そんな彼の歌詞の(案)と会話の一部をここにご紹介します。





※歌詞公開に当たりまして彼の了解を求めたのですが
「うん、いいよ」といういたって明快なご返答をもらいました。
が、掲載の歌詞につきましては一応、本当に一応ですが
全ての権利が作者であるグレ男氏に帰属することをここに明記致します。









東名フリーウェイ

夜の東名高速を走って、御殿場まで
雨上がりの道をどこまでも行くぜ
暗い道をひとり、大声で歌いながら

前のトラック道を空けろよ
制限時速120km?そんなの俺には関係ないぜ
俺のトランザムが唸りを上げる
本当はファミリアだけど
気にすんなよ。要はハートだろ

あれ?今ピカって光んなかった?
ひょっとしてスピード違反?
オービスってやつなの?
マジで?やばいよ。俺捕まっちゃうの?
どうしよう。罰金とか高いの?
なんか胃が痛くなってきたから
秦野中井で降りちゃった





グレ男(以下グ)「って曲なんだけど」
僕「は?」
グ「どう?」
僕「いや、どうってこれ、歌詞なの?なんか途中から“ただの面白い文章”になってるけど」
グ「既成の概念に捕らわれずにだね、自由な発想の曲をね・・・」
僕「自由にもほどがあるよね」





終電ラプソティ

僕はいなくなるよ 次の電車で
電車が来たら 本当にサヨナラさ
僕はいなくなるよ 次の電車で
あと少しで もう行ってしまうよ

ホームに列車が入ってきて
たくさんの人が降りていく
出発の時間だベイビー
僕はもう行かなくちゃならない

ホームに発車のベルが鳴って
君の言葉をかき消してしまう
無機質なドアが平然と閉まって
電車がゆっくり動き出すよ

でも、まだいるんだけどね
だってなんか名残惜しいじゃない
いや次の電車には乗るよ
本当に乗るって
あ、帰らないで

次の電車は急行だった
急行は目的の駅止まらないんだよね
次こそは 本当に乗るって
いやマジでマジで

ここまで待っても乗れないのは
心に名残があるから
ものは相談なんだけど
もう一度やりなおさないか?





僕「乗れよ!」
グ「今回はラブソングにチャレンジしてみました」
僕「みました、じゃねーよ!グダグダじゃん」
グ「でも名残惜しい恋人の雰囲気が出てるでしょ?」
僕「いや、出てないよ。途中彼女キレかけてるし」
グ「そして最後にかっこよく決める、みたいな」
僕「かっこよくないから!ただのダメな奴だから」
グ「そうかー。実話に基づいたんだけどな」
僕「誰の?」
グ「俺」
僕「ああ、そんなことがあったの。で、最後どうなったの?」
グ「断られた」
僕「だよな」
グ「断られた上にちょっと説教された」
僕「彼女の気持ちがわかる」





よくわからないけど

よくわからないけど反抗しよう
政治のことは知らないけれど
よくわからないけど反抗するよ
正しいことってなんだろう

よくわからないけど
難しいことはわからないけれど
戦争はよくないだろう
差別はよくないだろう
殺人はよくないだろう
悲しいことはよくないだろう

よくわからないけど反抗しよう
ストレートパーマってなんだよどっちだよ
よくわからないけど反抗するよ
ネギダクのダクってってなんだよ
東京特許許可局局長
東京特許許可局局長





グ「これぞ社会派ロック!」
僕「本当にわかんねーよ」
グ「ですよね」
僕「慣れないことはするもんじゃないね」
グ「うん、結構奥が深いわ」
僕「何が?」
グ「社会問題」
僕「広すぎ!範囲広すぎ!」
グ「そっか、もっとピンポイントがいいのか」
僕「そうだね、その方が書きやすいんじゃない」
グ「おし、ちょっと方向性が見えてきた」
僕「何について書くの?」
グ「秘書給与流用」
僕「狭すぎ!」









もちろん、これらはふざけた曲の例です。
グレ男は時々、驚くぐらい美しいメロディや心に届く歌詞を生み出します。
昔、まだ学生だった頃、僕とグレ男はよく二人で曲を作りました。
ギターを抱えて、二人で、朝まで。
あーでもないこーでもない言いながら
時にはもめながら、ずっと笑いながら。

これは僕たちが二人で作った最後の曲です。
思えばあの時、僕はすでにバンドをやめる決意を固め、
グレ男はそれに気付いていたのでしょう。
そんな思いがこもったこの曲は僕にとって少しだけ切なく
少しだけ特別な意味を持っています。




BLUE-Z

Stop any motion 午前12時 栞も挟まないままで本を閉じ
どこから聞こえる明日の指示 ごちゃまぜになって消えた筋と意地
やっと届いたあなたの返事 青いインクがにじんでいた文字
胸がちょっと痛いこの感じ ごまかしてただMake it bluesy

認められなきゃいないのと同じ 誰かのミスは対岸の火事
いつも慣れない苦い涙の味 僕は時計のたったひとつのネジ
目を引いたのは招集の掲示 “求めなければ掴めない虹”
結果も見ずに投げ出した匙 結局今日も立ち止まってた路地

通り過ぎたら振り返ってごらん


雲の隙間に見えた青空 ゲームは半ば七回の裏
悩んでいたのは同じ僕ら 逃げ出せない毎日をゆらゆら
凍える朝 見つめてた手のひら 叩き続けた開かない扉
飲み込んでた言葉「サヨナラ」 言えそうな気がしてた今なら

でも通り過ぎたら振り返ってごらん


柔らかい風に吹かれてヒラヒラ ホームの側で揺れていた桜
踏み切りの音が遠く聞こえたら バイバイもう振り向かず出かけるよ

やっと届いたあなたの返事 青いインクがにじんでいた文字
胸がちょっと痛いこの感じ ごまかしてただMake it
bluesy




ごめん、もうやめるよ、と伝えた時のグレ男の淋しそうな顔。
オールドグレッチでラフに、力強く奏でるリズム。
初めてオーディションに受かった時、二人で喜び合ったこと。
音楽について言い合って花見の席、桜の木の下でつかみ合ったこと。
やめた後、一度だけ見に行ったステージで変わりなく、グレッチを弾く姿。
そして二人で同じスポットライトを浴びて立つステージで
言葉なんかなくても分かり合えていたあの瞬間。


色々な思い出が詰まったこの曲も、いつかは忘れてしまうのでしょうか。

グレ男は今も、傷だらけのグレッチを持って
どこかのライブハウスで声の限りに叫んでいるのでしょう。

モドル

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